[0008] ぼーいみーつがーるそのさんのいち:被害者はお約束。【KanonSS:ろーかの】 (2002/12/10)
ろーかの。3 「ぼーいみーつがーるそのさんのいち:被害者はお約束。」 「今日も寒い」 わざと口に出してみたが余計に寒くなっただけだった。 作戦失敗。 休みの日でまだ昼前だからだろう、人が少ないのも余計に寒さを感じさせる。 今日こそ目的地に行かなくては。 昨日早速窃盗団(?)に巻き込まれ大変な目に遭いそうになったのだ、 『厄災』の力がいつ訪れるか解らないし。 そもそも俺の性格にも問題があるのは解っている。 「きゃぁっ!」 聞こえた声と同時に走り出す。声の方へ。 「…ったく面倒事に首を突っ込むのをやめないと!」 ◆ 「この辺か…?」 商店街を抜け、民家を抜けて。町外れだろう、背後に鬱蒼とした森が見える。 俺以外には誰もいない。 それはそうだろう、俺みたいな特別製の耳でも持ってない限りは小さな叫び声など聞こえるわけがないのだから。 気配を読む。争いというより風がこちらへ向かっている。 「えぅー、やめて下さいぃー」 (えぅー?……変な擬音だなぁ…まあ『うぐぅ』がいるんだから『えぅー』もいるんだろう、きっと) 居た。 目眩ましの呪文がかけてあったらしく、さほど遠くない所に少女とトロル2匹がいる。 少女は一生懸命走っているようだが、遅いトロルよりも更に遅い。 魔物の気配と人の手による魔力の気配。 (…人飼いの魔物か…) 「こっちへ来ないで下さい〜〜雹礫!」 (へぇ…氷系の初期呪文って事は魔女って事か……って!) 「雹礫!雹礫!雹礫!雹ーー礫!です!」 混乱しているのだろう、無差別に飛んでいく。 祐一に飛んできた塊は彼の目の前で何事もなく消えていく。 マントが魔法を起動させているためだ。 (あーあ…全然当たってないぞ、しかも…) 「……えぅう! 雹礫! 雹……ですぅ〜」 むやみに呪文を使ったために早くも疲労困憊になり、最後の呪文では氷は出現した途端溶けてしまった。 余裕などないのだろう。 「えぅ〜」 (こんな時に素敵な男性が現れてくれればいいのに…!『大丈夫ですか?可愛い御嬢様』とか言ってくれたりして〜) 訂正。かなり余裕がありそうである。 妄想中らしい、トロルの間の青空に向けて目をキラキラさせている。 もちろんそこをトロルが狙わない訳はない。 両手を組み、真っ直ぐに少女に振り下ろす。 (っぶね!) 「いやですぅ〜〜!」 防御できる訳もないが、身体を覆うショール頭をかかえて、痛みを覚悟する。 … ……… ……………… 何も来ない。痛みも。 「えうー痛くないです。さすがおねーちゃんのくれたショールですぅ♪」 「をい、コラ」 「えぅ?」 「えう?じゃねー、ちゃんと状況を判断したらどうだ、嬢ちゃん」 「はあ…えーっと」 目の前を見てみる。森が見渡せる。 「やはり隠者の森は広いですね」 目の下を見る。木々の間に雪原が見える。 「わあ、高いです………………………高い?」 空中に浮いている。 「飛翔の呪文が使えるようになりました! たまにはピンチも役に立ちますね」 「はぁ……ホントおとぼけたお嬢ちゃんだな」 「オトボケじゃありません!そんな事言う人嫌いです〜……えう?」 声が耳元で聞こえる。ちょっと低いけどよく通る声。背中がゾクっとしました。 「お、暴れるなって。……よっと」 抱え直され、膝と背中に手を回されているいわゆる伝統芸能である『お姫様だっこ』をされている。 (お、お、お姫様空中だっこです!) 身体を捻り、顔を上げる。 「お、おいこら、現状を把握してから動いてくれ」 逆光なのだが、かなり近いのでドアップで顔が見える。 前髪が長いためこの様にかなり近くで見ないと解らないだろうが。 さらさらの茶髪に目鼻筋の通ったちょっと中性的にも見える青年。 いわゆる超がつくほどの『美形』だった。 「か」 「か?」 (かあっこいいですー♪ 凄く、すごく格好いいですぅ〜〜王子様に決定です!) 「あの! 私と結婚を前提としたお付き合いをお願いします!」 「……………………………………は?」 マッタクイミガワカリマセン。ゲンインフメイノエラーデス。 腕の力が抜ける。 ということで抱えられた少女は引力に逆らえず落下していく。 「きゃぁ〜〜」 声で再起動を果たした祐一は慌てて少女を抱え直す。 「……あのなぁ…ほんと、状況を把握しような、嬢ちゃん。冗談言ってる場合じゃないと思うよ」 「……冗談ではないんですが……はあ、まあいいです。長期戦で行くのも悪くないです」 「………………かんべんしてくれ」 (わけわからん…それとも霞音には助けられたら結婚する一族とかがいるのか? …そうなんだろう) 緊迫感、というものが少女にはないらしい。 (まあ一般人つーのはこんなもんか?……深く考えるのはやめよう……疲れるだけだ) 「えーと、ちょっと派手に落ちるからちゃんと掴まって」 「はい♪」 祐一の首にぎっちりと腕を回す。 (あったかいです〜) 常人ならこの時点で白目をむいて気絶しているだろう。見事に極まっている。 (ぐあ、ちょっといやまぢ堕ちる……) 祐一もかなりギリギリらしい。 どだんっ! 抱いている少女に衝撃がいかないよう工夫したはずだが、衝撃はやはり大きく、 自分達の足下はかなり地盤沈下を起こしている。 「バンジージャンプみたいで楽しかったです♪」 「あ、のさ…ぐあ…いい…加減、首絞めるの止めてくれないか?」 「あっ はい」 力を入れていた気はないらしい。 腕を解いた後、少女を腕から下ろす。 (残念ですぅ〜もっとぎゅっとしていたかったです) (はふ…まぢやばかったぞ、見た目と違って何か体術でもやってるのか?) 赤い顔と青い顔。両者の表情は全く正反対だ。 「ひとまず、トロルからはかなり離れたけど…どうしてあんな所にいたんだ?」 「えーっと……あ」 のほほんとした表情が一気に真っ青になる。 「ああ〜〜大変です、大変です!大大変です〜〜!」 少女は身体を覆ったストールをバサバサさせながら、元の道へと戻っていこうとする。 「お、おおおおお姉ちゃんがっ!」 えうー! 何でこんな大事な事忘れたんでしょう!? 王子様、王子様のせいですからねっ!」 びしいっと祐一を指差しながら少女は森へ戻ろうとする。 「……ちょっと待った」 いつの間にか追いついた祐一に襟首を掴まれて猫のように持ち上げられる。 「おい、またトロルに襲われにいくのか? 第一俺は『王子様』とかいうのじゃないぞ」 「えう〜でも大変なんです! ピンチでパンチでポンです〜〜!!」 持ち上げられたまま、手足をばたばたさせる。 ぴしっ 「えぅっ! 痛いです〜」 「うーん、軽くデコピンしただけなんだけどなぁ〜まあいい。ひとまず落ち着こうな、え、えーっと……」 そこでお互い、全く名乗っていない事に気が付いた。 「俺は祐一、君は?」 「……美坂栞といいます、助けていただいたのにお礼も言えないし、パニックになってしまってすみませんでした」 「落ち着いたか?」 「はい、でも私あそこに戻らないと……助けなきゃ、お姉ちゃんを」 「…助ける?」 「はい、私…今日身体の調子が良くて、いいお天気でしたので隠者の森に薬草を摘みに行ったんです。 それで薬草摘みに夢中になってしまって、森の奥に入ってしまって…そしたらっ……」 よほど、怖い思いをしたのだろう、身体を震わせている。 「腕、掴まれて…変な小屋の中に入れられ……っひっ」 「……」 何も言えなくて、ただ、頭に手を置いて、撫でる。 たちまち少女の表情が穏やかになる。 「……でも、一人の人が、私の姉の事を言い出して……『コイツを餌にしてアイツを呼ぼうぜ』って… 駄目って言ったのに、だったらって言ったのに…っく……また、…またっ! また迷惑かけちゃって…」 「森の中の小屋の中にいる姉さんを助けられればいいんだな」 こくこくと頷く。 「……それって俺じゃ駄目か?」 涙で濡れた目で俺を見返す。 「……でもまた人に迷惑かけてしまいます……いつもいつもなんです…」 「姉さんを助けたいんだろ? トロルもいるし…君には特殊任務がある」 「?」 「この道をまっすぐ行って森をぬけて、助けを呼ぶってのがある。重要任務だけどできるか? 栞」 「…はい、任せて下さい、祐一さん……お姉ちゃんの事お願いします」 「ああ。えっと姉さんの名前は?」 「香里、美坂香里です……それではBダッシュで助けを呼んできます!」 「頼むぞ〜」 ◆ 栞の気配が消えてから。 (さて。アイツ等何とかしないと…野生ならともかく人飼いで魔力が上がってる奴を野放しにしとく訳にはいかないからな) 「悪いな…」 目の前には2体のトロルが両手を組んで祐一に同時に襲いかかる。 ヒュッと空気が揺れ、直後、トロルの手が何もない地面を叩く。 「どーするかなぁ〜」 高い木の枝に捕まり、ぶらぶらと身体を揺らす。 一番いいのは体術による攻撃だが… (…ストレス、溜まってるんだよなーあーでも使うと彼奴等が出てくるかもしれないし) でも、解っている。 ……闘いに飢えている。 ……力を使う事に飢えている。 ……そして限界まで我慢している。 一度思ってしまった感情を抑えるのは我慢が枯渇した今の状態では難しく。 喉が乾く。右腕がじりじりと熱を持つ。 (いい、よな、ちょっとくらい…) 「………………いいわけないんだけどさ」 自虐的な心の中の信条より口に出した言葉の方が本心を見せている。 とん、と先程栞を下ろした時とは全く違った音を立てて、祐一が木から降りる。 よく見ると祐一の周りだけ雪深いはずの地面が土を見せ始め、熱風が吹き始める。 風が祐一の前髪を上げる。 凄絶なまでの獲物を前にした、血を求める悦びの笑顔。 「楽しみたいなぁ〜でも時間ないっぽいよなぁ〜仕方ないよなぁ〜」 ぶちぶちといいつつも、漏れた魔力で森全体がざわめく。 祐一の魔力に触発されたトロル達が雄叫びを上げながら、祐一に迫る。 「ガァアアアアッ!」 「グァアアアアッ!」 もしもこの時、人が見ていたら、確実にトロル二体は中心にいた人物の身体を貫いていたと言うだろう。 「グォオオオォ〜」 「ギャウゥゥゥ〜」 だが、一瞬後、彼の姿は中心になかった。 わざと残像を残して、空中で逆さまに止まった祐一はさも楽しそうに、 「外れ〜。さて、と」 ピタリ、とトロル達のぶつかった額に手を置く。 「恨むなら、好きに恨めよ」 ぽつりとつぶやきつつも祐一の手からプラズマを散らした光球が放たれる。 森に光の柱が延びる。 巨大なトロルが跡形もなく消えていく。 神々しいまでの白い光だが、何処か寒々しく森の色を消していく。 その魔力はある程度の強い力を持つ者達に伝わる。 走るのをやめ、空を見上げる。 「……祐一?」 頬に手をあてながら。 「あらあら、やはり学校へ行っていただいた方が良さそうですね」 箸が止まる。 「………魔物が怯えてる」 お茶を注ごうとしていた手が止まる。 「凄い魔力でしたねぇ〜」 小高い丘の上で風に吹かれながら。 「……………………やはり戻ってきましたか…『厄災』」 「あぅ、今度こそ……」 『魔力は力を持つ者を導く』 古くから言われ続けているこの言葉はこのまま使われていくらしい。 ■後書き。 K:はふぅ〜トロル戦をどう闘うかがまだ微妙です。 失敗すれば体術に変更しかねない…『祐一が魔法を使う』というのはキーワードなので。 栞:……ずいぶん、時間かかりましたね?(ジト目) K:えう、すまん。今日は栞ちゃんをお迎えしました。 栞:(きょろきょろ)あれ? 私の婚約者の愛する王子様祐一さんは? K:いないよ(第一誰もんな事了承してない…) 栞:ええ!? そんな事する人は嫌いです! K:あ、あのさ。栞ちゃんと言えば、彼女…でしょ?長くならなかったら彼女もいっぺんに出す予定だったの。 それをね、祐一に話したら0と1の後書きで私が殺られたのをみて、自分の番だと思って逃げちゃったの。 栞:私と祐一さんとの愛のひとときを邪魔しやがって…これは…罰が必要ですね… …家に帰ったらこの黄色いプログレッシヴナイフで滅殺ですね……うふふ… (ポケットから出した……いやエ○ァの持ってる原寸大のものを簡単に持って(?)る……) うふふ……きっと綺麗ですよ……私の憧れそのままに…… ぽむ。 ああ、試し斬りしてみますか? 秋子:了承。 K:ひいぃいいい! ■設定。 栞に関しては次に。姉妹揃っての方がいいかと。 トロルを最初の敵にしたのは大きいので見栄えがいいかと。 祐一は主人公最強主義だけあって、とんでもなく強くしてあります。 剣も体術も魔法も使えます。他色々。 ばれるばれないの件はここで説明をするはめに。 駄目じゃん。 名雪は0で祐一が魔法の『熱華』を使ったと思っていますが、 あれは単にかるーーーーーく、闘気を周囲に当てただけです。 0の場合はちょっと八つ当たり風味で(笑) 次回予告。 人非人K。 ついにやります17.9禁(微妙な数値)。 「……私に、妹なんていないわ」 というか、書きにくいです。彼女。 つーか、現時点では禁難しいです。そこで書き止まってて。 逃げで次の章打ったりしてます(笑) 失敗すればとんでもないことになりそうで。 初稿:2002.07.05 再校:2002.09.29 追加訂正 三校:2003.06.27 訂正 |