[0002] ぼーいみーつがーる1:少年は少女に出逢う。そして始まる物語【KanonSS:ろーかの。】 (2002/06/02)
ろーかの。 その0 「ぼーいみーつがーる1:少年は少女に出逢う。そして始まる物語」 夢。 夢を見ている。 毎日見る夢。 永遠の厄災。 終わりのない悪夢。 ずっとずっと続く夢を止めたかったのだろうか。 夢は悪夢以外にもあったのに。 ◆ 人通りのない大通りに雪が降っている。 地面に、 草木に、 ベンチに。 そしてそこに座っている人物の肩や頭上にも白く積もっていた。 フードを目深く被っていて表情は見えないが琥珀色の長めの前髪は凍ってしまっている。 黒革のブーツも底冷えて雪が足型を形成しつつある。 彼を包む黒いマントも色が変わりつつある。 たとえ魔法がかかったコートとはいえ、意志無しでは雪を避けることはできない。 「………寒い」 ちょっと本気で死の覚悟を完了した。 醸し出す雰囲気より声が若い。年の頃は16、17であろうか。 少年と呼べなくもない年齢である。 幼い頃から様々な地を周り、色々な死地に身を置いてきたが、 この情けない状況で死ぬことになろうとは。 ……本気でそう思う。 「………遅い」 何故連絡をしてしまったのか。 何故待ち合わせなどしてしまったのか。 7年前から連絡をとろうとしなかったのは自分の方だったのに。 一人きりで生きていくことを決めたのに。 時がきたから、というものある。 これが本音なのか建て前なのかもう解らない。 繋がり…か? 求めてはいけないもの。 手に入れてはいけないもの。 7年前以前の記憶があいまいな自分を育ててくれた人達や、 自分に関わった人達が自分のせいでどんな目に遭ったか。 いつでも忘れてはいけなかったのに。 『厄災の子』である自分は。 それでもまだ、待ってしまっている。 逢いたいのだろうか。 過去に。 災いをもたらしたとしても。 自然と右手首を掴む。手の色が変わるほど。 小さく溜息をつく。 体内から温度が抜けていく。 ふと。 風の色が変わる。 自分以外の気配が白い大気に混じっている。 凍死しかけているとは思えない鋭い気配で周囲を探る。 相手の触れる風を読みとり、また溜息をひとつ。 「………何、考えてるんだアイツ……」 本当に死にたくなってきて堅く目を瞑る。 少しの間だったが、永遠の様に意識が飛んでいく。 ◆ 「………ね」 「雪、積もってるよ?」 上からのんびりとした声が掛かる。 同じ年の頃であろう、長い髪を髪で抑えながら、少女が呼びかける。 この寒いのにコートも羽織らず、謎のいでたちをしている。 「……そりゃあ、5時間も待ってりゃな」 「え。 …わぁ、びっくり。まだ2時間遅れぐらいかと思ったよ」 「はぁ?……それでも十分遅刻だろうが!」 ーふう。 大きくわざとらしい溜息をついてみるが、敵は泣きたくなるぐらい全く気にした様子がない。 「ね、私の名前覚えてる?」 「名乗るときはまず自分からだと教わらなかったか?」 「フード取ってよ……祐一」 名前を呼んで欲しいのか、少女は名乗らない。 「ここにいたら誰かまわず俺だとか思ってたんじゃないだろうな」 「ちがうよー…ちゃんと祐一だと思ったもん……わかるよ……」 少女の手が青年のフードの雪を払い、後ろへおくる。 琥珀の髪の間から同じ琥珀の目が上の少女に向かって細められる。 「迎え、サンキュな。 …さてと、そろそろ行こうか」 立ち上がり、軽くコートを払う。 ふわりと空気が揺らぐ。少年を取り巻く雪が気化する。 (『熱華』だ……) 熱華。炎系の中級加工呪文。 雪が液化する前に気化するどころか根雪を溶かして地面まで覗いているところをみるとかなり威力が強い事が解る。 少年の姿が熱で揺らぐ。コートをはためかせ、髪をなびかせて。 (ゆういち……やっぱり諦めなくてよかったよ、私) 初めて逢った時から。 ずっと好きだった人。 7年前に自分の想いが崩されてしまった時はとてもとても悲しかったけれど。 でも諦められなかった。 死んだと聞かされて沢山泣いて。 でも見ていないものを信じて納得できるような簡単な想いではなくて。 諦めきれなかったけれど。 でも、何処かで静かに納得してしまっている自分がいたのも確かで。 でも。 (諦めなかったから、逢えたんだよね) そして。自分の想いを再認識する。 まだろくに会話もかわしていないのに、頬が紅潮する。 目が合っただけで心の中が一杯になる。 座っていた時に感じた冷たい気配。すらりと高い背。 でも。 (あの優しい目と笑顔は変わってないね、祐一) 少女が思考の波に囚われて百面相をしているのをぼんやりみながら。 祐一も思考の波に囚われる。 さすが従姉妹だ。 (相変わらず、なんだな) 一目見たときはさすがにちょっとびっくりした。 7年も経ってしまっているのだから当然なのだろうが。 三つ編みをした可愛らしい幼なじみはちょっと、いや、かなり…… まあ「イイ感じ」になっていた。 さらりとした長い髪のせいだろうか、衣服の上からでも解る凹凸感からだろうか。 「祐一? どうしたの?」 相変わらずなのんびりでちょっと眠気を誘う声に性格。 ちょっとホッとしている自分。 相変わらず、だ。 「はい、これあげる」 「うぁっちっ」 冷え切った手に熱すぎる物体。全面に書かれている名称を見て凍り付く。 「遅れたお詫びだよ。再会のお祝い」 「…………」 「おいしいよ!」 「……………。…………………………!…………………!!!(怒)」 ブンッ! 物体が空の星になる。 「お祝いなのに……せっかく買ったのに……おいしいのに……」 「7年振りの再会がコレか!? 『ゲルルンどろり濃厚ピーチ味ホット』ってなんや! そないなモン飲ませて殺す気やったんか自分!」 「………おいしいのに」 「………おいしいのに」 「……………………ゲームが違う」 「え、何か言った?」 「いや」 溜息をつく。幸せと体温と気力を削り取られていく。 「本当にもう行くぞ」 「……まだ名前言ってくれてない」 「祐一」 「それは祐一の名前…わたしの名前……」 「次郎」 「私女の子……」 「花子」 「違う…」 「エリザベス」 「……」 少女が俯き鼻をすすり始める。からかい過ぎたか。 「いくぞ……名雪」 今日一番の笑顔を見せて名雪が頷く。 「うん!」 ◆ 「なゆきぃ、まだかぁ?」 「もうちょっとだよ」 と言ってばっかりの名雪を信じた俺が馬鹿だった。待ち合わせ場所からこんなに名雪の家が遠いなんて。 「走れば速いし、魔法だともっと速いけど、やっぱり久し振りだから、ね」 「……」 疲れた、眠い、重い、寒い。口から言葉を出してしまうと何とも情けない単語しか出そうもない。 ふと名雪が止まって俺を振り返る。 「ほらここ、昔祐一と雪遊びした広場だよ」 目の前にあるのはちょっとした広場。 (見たこと…ある気がするな) …………でも、それだけだ。意識するような記憶が俺にはない。 「……悪いな、俺、余り覚えてないんだ。昔の事」 「……え?…………でも……」 「何となくは覚えてるんだ。名雪の事も家の事も」 7年振りの北の町、霞音。 小さい頃は俺も従姉妹の名雪が住むこの街に何度も遊びに来ていた記憶がある。 でも、記憶というより情報はその一文だけであり、その時の『想い出』や『感情』は出てこない。 場所によって記憶の欠片や感情や思い出が思い出されることは今までにもあったけれど。 記憶が途切れることはほんの小さい時からあったように思う。 だから疑問に思った事も、不便に感じた事はなかった。 他人に聞くまで他の人間もそうだと思っていたし。 だから忘れていく事に疑問も持たず、名雪と連絡をとった事もなかった。 『時』がきたことも何故かある日突然思い出したのだ。 朝、目が覚めるように。 そして何故名雪に連絡をとろうと思ったのか解らない。 きっと勢いだろう、俺の事だし。 ……でもこの街、来たくなかったはずなんだけどな。 この街で過ごした7年前の冬の事は明らかに故意に削ったものの様に感情が欠けている。 思い出したくない気さえするのだ。 「……最後の…7年前も?」 「ああ……でも、まあ昔の話だし」 わざと、明るく言ってみる。 「思い出した方がいいよ祐一」 「そうか?」 「そうだよ…思い出だもん……」 (辛い事でも…やっぱり思い出して欲しい…) 7年前の私の想いを。 「ふぁいと、だよ」 「そうだな…」 ◆ 「到着ー」 「短くない。全然短くなかったぞ名雪」 気が遠くなる様な距離だった。 5時間も待たされたのだ、きっと足がつららのように機能していなかったのだろう。 名雪は俺の文句をすっぱりと無視し、門を開けてドアを開け先に中へ入り。 「おかえりなさい、祐一」 「……ああ」 「ああ、じゃないよ。帰ってきたら、『ただいま』だよ、祐一。ここは祐一の家なんだから」 「家…」 ほっとしている自分とそれと蔑んでいる自分。 考えているのに言葉がするりと出てしまう。 「ただいま」 「うん! おかーさーん! ゆういち、祐一が帰ってきたお〜♪」 ぱたぱたぱた。 沈黙が降りる。 「!……本当に生きてらしたんですね、祐一さん。…おかえりなさい」 「こんにちは、すみません何の連絡もしないでいきなり現れてしかも泊めていただくなんて…」 「いえ…私も名雪もお会いしたかったですし。それに、家族ですよ? 私たち」 玄関に穏やかな笑顔でたたずんでいる名雪の母、秋子。 (…相変わらず綺麗だなぁー、秋子さん……」 7年前のから全く年齢を経ていない気がするのは気のせいだろうか? ちょっと見とれてしまった。 とふと視線を上げると。 「あらあら綺麗なんて♪」 と頬染めた秋子さんと。 「私の時は名前も言ってくれなかったのに…」 と廊下の隅でのの字を書き始める名雪。 「え……あの。もしかして……」 「ばっちり」 「口に出てたおー」 「ぐぁ………」 この口癖だけは永遠のものらしい。 「上がって下さい。コート預かりましょう。名雪も制服濡れてるでしょう?」 「うんー」 色と同じくじっとりと濡れた重いコート(濡れていなくても仕込んであるので重いのだ)をシルクの様に軽々と持ち去っていく秋子さん。 (ああ、そういえば) こんな人だった。全てが謎な人なのだ。 「祐一さんの部屋は2階ですよ。夕御飯が出来たら呼びますから」 ぱたぱたと廊下を歩く音がする。 「……俺の、部屋か……」 連絡したのは昨日だというのに家具やら本だのが揃っている。 シャッと音を立ててカーテンを開ける。 目が焼き付く程の白さ。 薄暗い、敵から、雪から護られた空間。 のんびりした、穏やかで、暖かい空間。 ……7年前に、見たはずの空間。 ここで、暮らす? 甘い夢を見てもいいだろうか。 ……許されない事であっても。 ■座談会1■ K:すみませんごめんないお許し下さい 名雪:ゆるさないおー 秋子:ゲームもアニメも中途半端かつTCGも小説もムックも持ってない人間が書こうという時点で不了承ですね K:すみませんごめんないお許し下さい石投げないで鞭でぶたないでっ 名雪:口調も変なんだおー 秋子:というか性格も人物すら駄目なのでは? 名雪:オリジナル? K:ぐはあ!(精神攻撃10000ポイント) すみませんごめんないお許し下さい石投げないで鞭でぶたないでメリケンサックやめて ?:いいですか秋子さん 秋子:了承。 K:んぎゃああああああああ! 攻撃にこらえて次回予告。 雪降る白い町。 商店街。 そして学校へ。 「…が、学校!?」 初稿:2002.06.02 再校:2002.06.14 大幅改稿(アニメ見直しました(笑)) 魔法、漢字にします。ぐは。 三校:2002.09.29 少々追加、誤字修正 四校:2003.07.26 基本設定変更につき少々追加 |